242: マイティ・ハート 愛と絆
英題 : A MIGTHY HEART
監督・脚本 : マイケル・ウィンターボトム
脚本 : ジョン・オーロフ
プロデューサー : ブラッド・ピット
原作 : マリアンヌ・パール
撮影 : マルセル・ザイスキンド
編集 : ピーター・クリステリス
キャスト : アンジェリーナ・ジョリー ダン・ファターマン アーチー・パンジャビ イルファン・カーン ウィル・パットン デニス・オハラ
製作年 : 2007年
製作国 : アメリカ
日本公開 : 2007年11月23日
上映時間 : 1時間48分
2002年のパキスタンで、ウォールストリート・ジャーナルの記者ダニエル(ダン・ファターマン)は、妻マリアンヌ(アンジェリーナ・ジョリー)と ディナーの約束をした後、ある取材に出かける。しかし、それを最後に彼との連絡は途絶えてしまう。妊娠中のマリアンヌと友人たち、地元警察などによる懸命 の捜索が開始されるが……。 シネマトゥディ
◆◆◆さくら68点 劇場鑑賞
とっても面白かった。その面白さは、なんか不思議な感じだったんだけどね。というのも、スクリーンの中でドキュメンタリー・タッチで進行するこの映 画、その短いカットにでも、その“重さ”や“意味”が理解出来るし、マリアンヌが映るシーンでは、本来なら分る筈も無い彼女のココロの声が聞こえるから だ。・・・・・そう、それは、あたしが、原作を読んでから映画を見たからこその‘現象’なんだけどね(笑)。
以下、ネタバレ(映画&原作)あり。
▼ マリアンヌ・パール
マリアンヌ・パール(Mariane Pearl、本名:Mariane van Neyenhoff Pearl、1967年6月23日 - )は、フランスのドキュメンタリー映画監督、番組プロデューサー、司会者、作家。
オランダ系ユダヤ人・アフロ=ラテン系キューバ人・中国系キューバ人の血を引く両親の間にパリにて生まれる。1999年にWall Street Journalの記者であるダニエル・パールと結婚。
2002年にパキスタンにて夫ダニエルが誘拐される。この時マリアンヌは妊娠6ヶ月であった。ダニエルが殺害された3ヶ月後にパリで第一子(アダム・ダニエル)を出産した。
2003年に手記『マイティ・ハート』を出版。2007年にはマイケル・ウィンターボトムにより映画化、マリアンヌはアンジェリーナ・ジョリーが演じ、作品・演技共に高い評価を得た。 アンジェリーナ・ジョリーとは私生活でも深い友情で結ばれている。 by wiki
▼ ダニエル・パール
ダニエル・パールはジャーナリストだったが、アメリカ人でかつユダヤ人だということから、2002年にアルカイダと国際イスラム戦線の関係者とされる者にパキスタンで誘拐され殺害された。
父のジューディア・パール(Judea Pearl、1936年 - )はイスラエル系アメリカ人の計算機科学者で哲学者。 by wiki
以下、映画を観てなければチンプンカンプンw
ムシャラフ大統領(パキスタン)がホワイトハウス訪問に出かける直前に、オマールが逮捕されたこと。これはムシャラフ大統領にとって体裁を繕うのに 格好の材料になった。が、このオマール、実は一週間も前に自首していて、それをISI(パキスタン軍統合情報本部)は知っていたという事。映画では、チ ラッとしか説明されなかったよね。事件から5年しか経過していない今、この辺りの政治的な事なんかは、ハッキリしているわけじゃないから、ドキュメンタ リータッチのこの映画で描くのは、まだ色々と難しかったんだろうな。他にも、文化的なこととか、知らないとピンとこない事が散りばめられていたけど、 あっ、あれは!、・・・みたいな感じで分るのが楽しかった。
ダニエルの手錠を掛けられている画像数点が送られてきて、その画像を見たアメリカにいる彼の家族が、「良かった、彼は生きていることが分った」って言う言
葉を聞き、ちょっとだけ哀しそうに笑うマリアンヌ(アンジー)の表情。彼女にしてみたら、ダニエルが死んでるかもしれないなんて考えもしないで探している
から、ちょっとビックリしてその言葉を聞くんだよね。他でも、映像だけではちょっと想像しにくいココロの声が、聞こえてきたのは面白かった。特に、「キャ
プテン」との絆とかね。
インドでイスラム教徒の両親の子として生まれ、米国ウェストヴァージニア州のモーガンタウンで育ったアスラは、パキスタンのイスラム教徒と結婚、三ヶ月も
しないうちに離婚・・・とアイデンティティの二面性を持ち、心に傷を負った女性なんだよね。で、インドとパキスタンは仲が悪いから、あらぬ疑いを抱かれて
しまい、彼氏も失ってしまう。でも、実は後に彼の子供を宿している事が分るんだけどね。(もちろん、だからといってヨリは戻さない。)他にも、映画では
ちょっと分らない人物の背景を知ってるから、リアル感があって面白かった。主人公マリアンヌに夫ダニエルは元より、彼の上司バッシーの事とかもね。
ちょっとだけ、というか、あたしが気付いたのは3点だけなんだけど、原作通りじゃ無いシーンもあった。中指を立てたダニエルの写真が無かった事、新 しく電話線を引くのに「近所と共同で使う」と言った事、そして、ダニエルの遺体が10ヶ所で切り分けられていた(原作は9ヶ所)という事だ。最後の1つは 別にして、映画にするのが不味かったのかな。
マリアンヌが「パキスタン人を恨んでいない」と言ったその姿は、とても強くて美しいと思った。憎しみに心を占領されない、悲しみに打ちひしがれな い、そのどちらも被害者の家族にしてみたらとても難しい事だと思う。彼女にそれが可能だったのは、何故なんだろうか・・・? 一蓮托生に単純化して物事を 判断しないジャーナリストとしての知性、日常的にダニエルと仕事を共にしたり話し合ったりして培った価値観の共有と一体感、仏教徒としてのモノの捕らえ 方、そして何より、彼女のお腹にいるアダムの存在が支えになったのだろう。そんな彼女の姿に心打たれた。
でも、その反面、「あぁ、これは、国際的な負の連鎖の一部が、個人に降りかかったんだ」とも感じた。まぁ、その国際的な負の連鎖は、国ばかりでなく、個人が作り出している一面もあるんだろうけどね。・・・・・哀しいね。
以下、映画の補足になりそうな部分を原作より抜粋。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・午前2時まで待ってもダニーが帰ってこなかったら、当局に連絡するつもりだった。しかし、どの当局に? パキスタン警察には汚職がはびこっている。汚職問題は、ダニーと私が何ヶ月もかけて追っているネタだ。実際、今警察に連絡するなんて、間違った考えとしか思えない。情報機関はどうだろう? ISI (パキスタン軍統合情報本部) がどんな役割を果たしているかは押しはかりがたく、考えただけでもぞっとする。ISIとは「国家のなかの王国」であると聞いたことがある。また、この国で起こっていることでISIが知らないことはほとんどない、とも聞いたことがある。しかし今回の件にISIが関わっていたらどうする? 米国領事館に先に電話したほうがいいのだろうか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
キャスターのバーンズとCNNの担当者と私は、事前に、インタビューの基本的な条件について確認しあっていた。私は、ダニーの死にまつわる細かい話は一切しないことをを要求し、彼らはそれを了解していた。にもかかわらずバーンズは、インタビューもこれで終わりというときに身を乗り出し、好奇心まるだしで、「あなたはそのビデオをご覧になりましたか?」と尋ねた。
夫が惨殺されたビデオを見た妻の気持ちを、どう説明せよというのだろう? 「あなたは本当に無礼な方ですね」と私はフランス語で言い返した。バーンズはフランス語がわかることを知っていたからだ。「ついさっき、あれほどお願いしておいたのに、それでもあなたはそんな質問をなさるのですか? 私の申し上げたことが、まったくお耳に入らなかったのでしょうか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「私の気持ちのことはさておいて」と私は彼をさえぎった。「ジャーナリズムがあのビデオ (ダニエルが首を切断される映像) を放映しなければならない理由を教えていただけないかしら」
「あのビデオにニュースバリューがあるからです」
それはまるで自分自身に言い聞かせるような口調だった。
「あなたは良心のかけらもない人ね」と私は言った。
「でも、最後にあなたに言っておくわ。あのごろつきのテロリストたちは、あなたが視聴率のためならなんでも放映することを知っていたから、ビデオを作ったのよ。彼らはあなたの弱みにつけこんだ。そして、哀れにも、あなたは彼らに屈服したのよ」
more ・・・・・ 『マイティ・ハート』にみる報道ジャーナリストの世界
ダニエル氏は、靴爆弾事件 (2001年12月、パリからマイアミに向かっていた大西洋上を飛行していたアメリカン航空機の客室内で靴の中に隠して持ち込んだ爆発物を点火しようとした男が取り押さえられた事件。米中枢同時テロに続くアルカイダによる「第二次対米テロ」と見られている) の英国人リチャード・リード容疑者 (その後アルカイダのメンバーであることが判明) の背後関係を調べるため、イスラム教過激派周辺を取材していた。
その矢先に、何者か (のちにパキスタン・イスラム原理主義過激派グループ「ラーシュカ・アイ・ザハーングヴィー」<ザハーングヴィーの軍隊>と判明した) によって誘拐され、消息不明となった。誘拐犯は、ダニエル氏がイスラエルの諜報機関のスパイだと断定、数週間後には鋭敏なナイフで首を切り落とした。その残虐な処刑の映像はアラブ系テレビを通じて放映された。
殺害された当時、マリアンヌさんは妊娠7ヶ月。精神的にも肉体的にも動揺する中で夫の消息を自力で探し出そうとしたが、悲惨な結末となってしまった。
ニューヨークに本部を置く「ジャーナリスト保護委員会」(CPI)によると、この年ダニエル氏と同じように取材中に殺害されたジャーナリストの数は19人に上っていた(その後、2003年には42人、04年には56人と激増している)。
原作、スゴく良かったよ。映画では省略されちゃってた部分が沢山あったから(直近の事件だし、色んな意味で内容的に映像化するのが難しかったのかもね。でも、今だからこそ描く意味のある内容だと思ったから、映画化したんだろうな・・・)、映画を観てから読んでも、面白いと思うな。・・・・・映像+文字、あたしはその両方を味わったので、とても深い経験が出来た。
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